浜松に残る唯一のゴマ油の工場
浜松市西区湖東町にある「村松製油所」は、自然に囲まれた静かな場所にある浜松で唯一のゴマ油の製油所です。明治5年に創業し、150年の歴史と伝統的な製法で作られるのが特徴です。
隣には築120年の古民家をリノベーションした「古民家キッチン ゑふすたいる」が並び、古さと美しさがあるとても素敵な外観です。
70年以上の歴史のある機械が現在も稼働中
工場内には、ゴマの芳ばしい香りと70年以上稼働し続ける機械の大きな音が鳴り響きます。
太平洋戦争で武器の材料となる鉄製品が全て接収されるという歴史や、伊勢湾台風と言った天災にも乗り越え、先人が守り続けてきた工場です。
また、電気がなかった時代には、この地域に流れる伊佐地川の水車の力を利用して機械を稼働させていました。
シャフトと呼ばれる動力を伝達する1本の「軸」となる部分が、すべてのベルトを動かし、からくり時計のような仕組みで工場全体の機械を動かしています。つまり、このシャフトが止まることで、全体が止まる、という仕組みです。
これは、モーターを買うのも高価だった時代に生まれた、工場を動かす為の先代の工夫と知恵だそうです。
工場内には、ねじ式の圧搾機をはじめ、当時から残る精選や乾燥、蒸煮の機械、更にはゴマを運ぶ為の木造のエレベーターなど、貴重なものが現在も稼働し続けています。
木造で作られた工場の建物自体にも特徴があります。
奥に見える横一本に繋がる太い柱は、よく見ると1本の木からできています。このような建築物が今の時代まで残っていることはとても貴重で、ベテランの棟梁さんも目を輝かせるほどだそうです。
現在は、電気制御され一つ一つのモーターによって機械が稼働している工場が多いですが、ここでは、昔から続く機械の仕組みをそのまま利用しています。
貴重な機械なだけに、修理は手作業で行い、稼働中は従業員が常駐しています。
古き良き伝統を残しつつ、時代に合わせて安心を届ける
充填作業(油を瓶に詰める作業)や品質をチェックする検査は、新たに増築した専用の部屋で行われます。
伝統製法を残しつつ、時代が求める安全安心の基準をクリアしていく、というバランスを大切にしているのも、村松製油所の素敵なところです。
赤と白のゴマ油。パッケージには花のイラストが
同じ原料のゴマから、2種類のゴマ油が作られます。ここでは、赤と白と呼ばれます。
赤いゴマ油は、茶褐色のように色が濃く、焙煎して圧搾します。芳ばしいゴマの香りが特徴で、中華料理等にもよく使われるタイプのものです。
白いゴマ油は、色が透明で、蒸煮してから圧搾します。あえてゴマの風味を抑えているので、クセがなくどんな料理にも合い素材の味を引き立たせてくれます。
また、工場内ではオリジナルのラー油をはじめ、いろいろな種類の油も販売されています。
村松製油所の油にはラベルにも特徴があり、ゴマ油にはゴマの花、ラー油には唐辛子の花のイラストが描かれてあります。
先人の想いや歴史を通して、地域を守り後世に伝えたい
「今は何でも手に入り、ボタン一つで機械も動かすことができますが、何もなかった時代に、限られた環境、与えられたこの中でモノ作りをするという姿勢は本当に素晴らしいことです。
不便だった時代だからこそ生まれる工夫と発想、苦労の上に生まれたアイディアが工場の至る所に垣間見れ、大切に残していきたいと思いました。」
そうお話してくれるのは代表の木下さん。
もともと、大手自動車会社でサラリーマンとして働いていたところに、とある縁からこの村松製油所の後継者としての声がかかりました。
村松製油所の先人の想いや歴史を知り、地域を守り後世に伝えたいという想いから
「どこまで通用するかわからないけれどやれることは最大限にやっていこう!」
と食品業界に飛び込んだそうです。
古民家レストラン「ゑふすたいる」で村松製油所の味を知ることができる
「これからは、油を作るだけでなく、美味しく味わってもらいたい」
そんな想いから、築120年の古民家をリノベーションして信頼のあるシェフを招き、2021年6月にレストランをオープンしました。
料理の全ての油は村松製油所のものを使用しています。
メニューには地元産ブランド食材をメインに、三ヶ日牛のローストビーフや奥浜名湖竜神豚のローストポークが人気です。また、カレーはあえて辛さを控え、ラー油を加えることで自由に辛さを調節できる工夫をしています。
他にも、搾り終えたゴマ「ゴマミール」を衣に使った唐揚げは、製油所ならではのメニューです。ゴマの風味が中で広がり、いつもとは違う食感と風味の唐揚げを楽しむことができます。
「村松製油所の油はさっぱりしていて、油の切れがいい。炒め物や揚げ物も、少し油を変えるだけで料理がワンランク上がります。比べてみるとわかりますよ。
そして、食べた後にほんのり白ごまの香りが残り美味しいです。」
そうお話してくれるのは「ゑふすたいる」のオーナーでシェフの藤田さん。
シェフも認める味の理由は、良質な材料と昔ながらの圧搾製法で丁寧に作られていることを十分に理解されているからだそうです。
古民家の良さを前面に出し、村松製油所の歴史を重んじる藤田さんだからこそ一つ一つにこだわりを持って料理を提供されています。
子ども達にもゴマを通して伝統のある食の歴史を残したい
「油を通して美味しい料理を楽しんでほしい。少しでも皆さんの笑顔に関わることができたら嬉しい。」
先人を敬い伝統製法を守るたくさんの人達の想いが、村松製油所の油には込められています。
歴史を繋ぐ人達がいるから美味しい食事をすることができる、
そんな食に関わる感謝の気持ちを、村松製油所の油を通して子ども達にも伝えていきたいですね!