生活の維持に欠かせない運送業
昨今のコロナ禍における影響で、テレワークやソーシャルディスタンスなどの言葉を、新しく見聞きした人も多いのではないでしょうか。「エッセンシャルワーカー」という言葉もその1つです。
エッセンシャルワーカーの意味とは、人々の生活にとって必要不可欠な労働者のことを表す言葉です。
世の中には私達が生活していく上で「必要不可欠な仕事」が多数あります。
健康と命を担う医療・福祉従事者、スーパーなどの小売業界に身を置く店員、物流に関する郵便配達員やトラック運転手、ライフラインに関わる従事者など、私たちの生活を支えている職種の人たちがエッセンシャルワーカーにあたります。
トラックドライバーもまた、昼夜を問わず、全国各地へ、生鮮食料品から産業用資材まで、お客様からお預かりした大切な物資を運び、国民生活と産業活動を懸命に支えています。
我が国の輸送機関別分担率はトラックがトンベースで9割を占めており、ドライバーがいなければ、くらしと経済を支えるライフライン「物流」を維持することができないため、世の中に必要不可欠な仕事です。
しかし今、トラック運送業界では、少子高齢化などによる若年ドライバー不足が深刻化しており、大きな社会問題になっています。
浜松市東区にあるアトランスは創業42年になる運送業者です。
株式会社アトランスは社員が健康にイキイキと働ける職場作りに取り組んでいます。
安全に荷物を運ぶためにヒヤリを共有
アトランスは浜松東区と藤枝市に営業所があり、近・中距離トラックで運送しています。
自動車部品や家庭電化製品、住宅設備などを運んでいます。
運送業として一番の課題である「安全運転」ですが、
アトランスでは毎日の点呼時に安全宣言をドライバーが行います。
「安全宣言」は毎月ドライバーから募集し、自分が危なかった・注意すべきと思ったことを他のドライバーと共有することにしています。
会社側から安全運転を心がけるように伝えるだけでなく、自分達で主体的に安全運転を心がける工夫をしているのです。
主体的に取り組む工夫は他にもあります。
毎月1回、全ドライバーを対象にミーティングを行い、危険予知トレーニングや安全教育をしています。
使う教材は危険運転の映像ですが、安全教育のコンサルタントから購入したものだけでなく、実際の自分達のドライブレコーダーに写った知った道、いつもの交差点の映像を使い、危険は身近にあるものだと感じるようにしています。
ミーティング時はただ映像を「見る」だけでなく、各ドライバーに「ここは何が危険か」「何を注意するべきか」と問い、自ら考え、受け身の教育にならないように心がけています。
私たちも免許更新時に危険運転の映像を見ますが、何年かに1度のことで危機感は薄くなってしまいがちですが、アトランスでは毎月皆で安全運転を確認し合っているのです。
月に1回行うミーティングと年に2回行う安全大会がある 安全大会は本社営業所と藤枝営業所合同で行われる
健康経営優良法人中小規模法人部門を5年連続認定
健康的に働ける職場が多くなることで、多くの社会人が安心して働き生活できる環境が生まれ、結果的に日本全体の活力の向上にもつながるものです。
また、従業員が健康的に働けるようになることで、企業の労働生産性が向上しますので、健康経営を推進することは、企業、従業員ともにメリットがあるものと言えるでしょう。
健康経営の取り組みを促進するための制度として、「健康経営優良法人認定制度」というものがあります。
アトランスは従業員の健康維持は会社だけでなく本人や家族の為になるものとして健康の推進に力を入れ、「健康経営優良法人中小規模法人部門」を5年連続で認定を受けています。
検診の結果、再検査対象となった従業員には再検査受診を推進し、まずはイエローカードを発行、再検査に応じない場合はピンクカードを発行し、視覚的にも自身の健康管理に注意が向くようにしています。
インフルエンザの予防接種では、従業員だけでなく家族の分も会社が費用を負担し、家族みんなで健康推進に取り組んでもらっています。
ピンクカードには「何故検査にいかないのか」を記入してもらう 多い理由は「行く病院がわからない」この場合は健康推進リーダーが病院を紹介してくれる
「私は健康推進リーダーとして従業員の皆さんに健康を意識してもらう役割を担っています。入社してから多くの方々にお世話になりました。健康を通して皆さんに恩を返したいと思っています。毎月健康だよりを発行していますが、その月に流行しやすい病気や健康に良い食べ物、健康の豆知識、時にはナンプレなど皆さんの健康に役立つ情報を載せています。健康で働くことがイキイキと働く第一歩となりますのでこれからも色んな情報を調べて皆さんと共有していきたいと思っています。」
と健康推進リーダーの金子さん。
従業員や家族の為に様々な工夫をして健康の意識付けを行っています。
給与明細と一緒に配布される「健康だより」
従業員にイキイキと働いてほしいから
アトランスでは女性ドライバーの雇用も積極的に行い、中にはママさんドライバーもいますが、出産し、職場復帰ができるように企業主導型保育園に相談し、お子さんを預けて安心して働けるように体制を整えました。
企業主導型保育園とは、内閣府主体の「企業主導型保育事業」として2016年に始まりました。
企業が自社従業員のために事業所内や周辺の商業施設等に保育所を設置する形態です。
従業員の多様な働き方に柔軟に対応できる保育サービスとして、子育て支援や待機児童問題解消の貢献を目的にしています。
複数の企業で共同設置することや、自社従業員の子どものみでなく地域住民の子どもを受け入れることもできます。
これにより、ママさんは仕事と家庭を両立させ、頑張ることが出来ています。
お子さんの写真や動画をママさんから見せてもらうのが何とも嬉しいのです、と渡邉社長。
従業員と会社が良好な関係であることが伺えます。
ママさんドライバーもそうですが、運送業未経験者を受け入れていることもあり、従業員の中には普通自動車免許しか持っていない従業員もいます。
アトランスでは、中型や大型免許、フォークリフト、運行管理者などの資格取得を応援し、資格取得費用は会社で負担しています。
これは会社として必要な資格だからだけでなく、従業員に自分の仕事に価値を感じて欲しいからという想いもあります。
ただ働く、ではなく自分の仕事に意味を持たせ、イキイキとした時間を仕事で使ってほしいということです。
これにより従業員は普通免許から中型免許、中型免許から大型免許、などとステップアップし、仕事にやりがいを見出して働くことが出来ています。
思いやりやチームワークで働きやすい職場環境
グリーン経営で地球環境にも優しい運送を
運送事業者が自主的かつ計画的に環境を守るための対策を取りながら、燃費の向上や交通事故の減少など経営面での改善もおこなうことをグリーン経営といいます。
トラック輸送がなければモノや商品の流通ができないため私たち消費者にとってなくてはならない存在であり、日本経済を担う重要な役割を果たしているからこそ温暖化や産業廃棄物の排出量増加が大きな社会問題となっている今、運送事業者が率先して環境保護のためにグリーン経営を行う必要があるでしょう。
「Gマーク」も取得している Gマークは国土交通省が推進する「安全性優良事業所」の認定制度 安全性の高いトラック運送事業者を選ぶための目安です
アトランスでは「グリーン経営認証」を取得し、地球環境に優しい運送業を行っています。
取り組みの一つとして「ゆっくり発進 ゆっくり停車」のエコドライブをチェックするため、トラックごとに毎月燃費を計算しています。
先月と比べ燃費が悪くなれば急発進や急停車が多く、エコドライブが出来ていないことになり、ドライバーに対して注意を促しています。
エコドライブは安全運転にも繋がり、私たちでも簡単に出来るSDGs活動の一つでしょう。
10月9日はトラックの日 静岡県トラック協会西部支部では街頭で安全運転呼びかけやゴミ拾いを行った
相手を想う心があればSDGsに繋がっていく
SDGsの17のゴールのうち7ゴールに取り組むアトランスの渡邉社長はこう言います。
「全ての人が自分らしく生きていける世の中になればいいと思っています。自分が自分らしく生きることや、相手を大切に思う心を持っていれば、自ずとSDGsは達成できるでしょう。相手のことを考えることは仕事においても重要です。漫然と「作業」をすると事故は増えていきます。自分が運んでいる荷物は必ず必要としているお客様がいるんだ、社会の大きな役割を担っているんだとやりがいや使命感やを感じて「仕事」をしてもらえるように取り組んでいます。そういった時間には価値が生まれイキイキに繋がっていきます。私たちが出来ることはわずかですが、関わる全ての人にイキイキとしてほしいなと思っています。」
普段何気なく目にするトラックですが、運んでいるものは「物」だけではなく、安全や安心、相手を想う心でしょう。
経験豊富な人材を安定的に確保し続けるためにも、運送業の昨今の物流業界における課題は、日本国民全体が取り組むべき課題です。
左:健康推進リーダー 金子さん 右:アトランス 渡邉社長