「管」でつながり合う事業と事業
愛管株式会社(以下、愛管)は浜松市北区都田にあります。
私たちの生活に欠かせない「水」と「空気」を運ぶ管工事業を請け負う業者さんです。
建物があっても、そこに人が住み生活を築けるようにするためには配管工事が必要。
配管は人間の体でいう「血管」にあたり、私たちのライフラインを根底から支える必要不可欠なものです。
給水管や排水管などを繋ぎ水のライフラインを整えるだけでなく、
エアコンのような冷暖房機と換気に必要な設備などの取り付けも、愛管のお仕事です。
施工した設備は老朽などの理由で、定期的なメンテナンスや修理なども必要になっています。
こういった理由からも管工事業の需要が尽きることはありませんが、
愛管の事業は管工事業以外にも広がっています。
●管工事業
・愛管
●農業事業
・連理農園
●レストラン事業
●農産品加工工場
・お菓子工房「Stella」
●浜松市認可保育事業
これらを全て運営しています。
創業者は管工事業を営みながら、
「レストランを経営したい」
「フランスの南プロヴァンスでゆっくりしたい」
という想いを膨らませ、6,000坪の土地の中にレストランや農場を作りました。
2代目の現社長もそんな大きな土地の中で「何がしたいか」と考えた時に、
「通っていた保育園の先生がいたおかげで毎日楽しい幼少期を過ごせた」という想い出がきっかけとなり、
保育園を作ることを決意。
その結果、地の利を生かした素晴らしい環境が出来上がりました。

Cafe&Restaurant LENRI 建物は住環境研究所、藤田氏によるもの
幸せの好循環を生み出す「連理の木の下で」
愛管の敷地内に1本の木があります。
この木は一見1本の大きな木なのですが、
よくよく見てみると2本の木が寄り添い支えあっています。
一つの木の枝が他の木の枝と相つらなって、木目の相通じることは、
吉兆とされて「連理」と言います。
愛管ではこの木をシンボルツリー「連理の木」とし、6,000坪の敷地全体を「連理の木の下で」と呼んでいます。
「連理の木の下で」は農薬不使用野菜や無除草剤野菜や果物を栽培しており、
ブルーベリーやレモン、ゆず、かぼす、オリーブ、ハーブ類など、季節の野菜や果物を種類豊富に栽培しています。
養蜂も行っているのでハチミツの収穫もここで全て行っています。
農園で栽培した食物は、市場には出回らず、
すべて愛管が運営するレストランやカフェの料理、保育園の給食の食材として提供されています。
この農園は愛管の農業部門が管理。
地域の高齢者雇用にも繋がっており、
保育園の子ども達は「じいじ」と慕っています。
子ども達はじいじ達をお手伝いしたり、
レストランやカフェ、農産品加工工場に配達をしたりすることもあります。
子ども達は自分達でも沢山の野菜を作っていて、
給食に使ったり、
使いきれなかった野菜は、どうしたらいいか自分達で考え、
保護者に「お店屋さん」をして野菜を販売しています。
そこで得た収入で子ども達が大好きな図鑑を数冊購入することが出来るほど大盛況。
じいじ達は手作りの椅子やおもちゃを子ども達に作ってくれたりもするそう。
コロナは別として、地域との関わりが少なくなった現代社会ですが、
この連理の木の下では様々な業種、年齢の人がお互いに寄り添い、
循環して成長し続けているのです。

6,000坪の土地全体を「連理の木の下で」と呼ぶ。
働くパパママのため、地域の方々のために
保育園「れんりの子」には毎週木曜日に農産品加工工場からクッキーが届き、
注文すれば月に2回レストランのお惣菜が届きます。
これは全て保育園に子を預けるパパママのため。
週の半ばの疲れた時に保育園に迎えに行きつつ甘いクッキーを買ったり、
夕飯を一品増やすことが出来る日があるのです。
ちょっとしたことですが、働く親にとってはとても嬉しいものです。
このお惣菜に使われるお野菜は敷地の中で育てた農薬不使用野菜や無除草剤野菜ですが、
レストランでも使いきれなかった野菜を使っています。
そうすることでSDGs12番の目標「つくる責任 つかう責任」も果たすことが出来ています。
また「連理の木の下で」は定期的にマルシェを行っています。
目的は近所の農家さんの農産物を販売すること。
若いお客さんのために手作りアクセサリー屋さんも並びます。
コロナで中止になることもありますが、600~800人ほどの人が来ています。
地域住民も一緒になって食農や地産地消の交流を深めることが出来る場となっているのです。

保育園の門には管工事部で出た不要な管が使われている。もちろん皆で組みました。
れんりの子に学ぶ「食農保育」
私たちの生活に欠かせない「食」は便利になる一方で、
生産の現場と消費の場面の距離が遠くなってしまいました。
食の安全を脅かす事件が起こったり、生活習慣病の増加などの「食」に関する多くの課題も発生しています。
また、現代の子ども達は「食」に関しての興味が薄く、
野菜の名前が分からない、朝食を食べない、同じものしか食べない、
コミュニケーション無く一人で食事をするなど、
「食」の乱れが問題となっており、「食」を通じた教育→「食育」の重要性が増してきています。
「食」は、健やかな身体作りのためだけでなく、
「食」のリズムを通じて規則正しい生活習慣を身につけたり、家族と楽しく食事をすることで、心を豊かにする役割を持っています。

この日は中秋の名月。お供えの野菜もお団子も子ども達が収穫し作りました。
れんりの子では「農」が同じ敷地にあるという恵まれた環境を生かして、
食農保育に力を入れています。
子どもたちは常日頃から農園で経験を積み、
・健康維持
・地域活性化
・自然を想う心
・文化の伝承
・親子の絆
・いのちの大切さ
・自分で考える力
といったことを「画面越し」や「経験のぶつ切り」ではない生の農作業で楽しみながら身に付けています。

木のぬくもり溢れる園内。随所にじいじ手作りの木の椅子やおもちゃがあります。
「乳幼児期の食育活動が注目されていますが、人手や土地も無いことから、
1つのさつまいもの苗を数人で抜いて写真を撮って「さつまいもを収穫しました!」というだけのイベントになってしまいがちで、日常の中に取り入れるのは難しい現状があります。
れんりの子では子ども達が自分で季節の野菜の種まきや苗植えをし、雑草を抜き、落ち葉を集めで作った肥料で土を作り、石を取り、毎日水をあげています。
苗が大きくなって花が咲いて実が生るのをただ見ているのではなく、全て自分達でやっています。
大人でもなかなか大変な作業ですが、努力してそれらを行ったことでようやく野菜が収穫できるんだ、ということを実体験により習得しています。
子ども達は教えなくても野菜の抜き方、はさみの使い方を覚えます。「たまねぎは根本から抜かないと葉がちぎれて抜けないんだな」「はさみは奥で切らないと茄子の茎が切れないんだよね」と自分で経験したことにより学んでいるのです。
このような環境の中で連理の木に見守られ、れんりの子は「生きる力」を培っています」と富田園長。
食農保育の大切さと、現代においての食農保育の難しさを痛感します。

子ども農園で子ども達は大人顔負けの農業をしています。
連理の木が見守る愛管のミライ
管工事業を行いながら、
レストラン、農業、保育園を展開する愛管。
それぞれがお互いに寄り添いながら、
まさにシンボルツリー「連理の木」のように大きく枝や葉を広げ大空高く育っています。
「連理の木の下で」には、今は失われてしまった「当たり前」のことが沢山あります。
6,000坪の敷地の中では創業者が願ったように、
ゆっくりとした時間が流れ、
全く違う業種や年代の人と人が挨拶し合い交流をしています。
中村社長は今後について
「ここには自然があります。普通にあるべきものがあるのです。敷地は広いのでまだ植えられそうなもの、まだ出来そうなことが沢山あると思います。保育園も開園したばかりで子ども達は半数しかいませんが2.3年で定員に達することでしょう。そうしたら何が起こるんだろうとワクワクが止まりません。他の事業所や企業とも何ができるんだろうか、と考えています。SDGsでパートナーシップの項目がありますが、地域が活性化して大学や小学校とも繋がれたらいいなと思います。」
「連理の木の下で」繰り広げられる好循環のスパイラルに次は何が加わるのでしょうか。

左:中村社長、右:富田園長。管で作られた保育園の看板。管が繋ぐ事業にワクワクが止まらない。