心が痛くなるあの日の記憶。でもよかったら少しお付き合いください。
KOSODATE BASE 浜松って何人かのライターさんが記事を書いているのですが、最近はハッピーな雰囲気の記事が立て続けに載っているのに、いきなり重い記事をぶっ込んじゃってなんかすみません。
震災の事…。被災地で暮らしていなくとも、また被災地にゆかりがなくとも、あの日を生きた人にとっては胸が苦しくなる記憶を呼び起こすと思います。
私もこの記事を扱うことに悩みました。でも、私も子どもも…またその子ども達も、この日本という国で生きていく人は多いわけであって、もうすぐあれから14年目の3.11。このタイミングで紹介したい企画があったので書かせていただきます。
よかったら少しお付き合いください。
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今回、紹介したいのは入野にあるギャラリー、ツインギャラリー蔵で3月8日(土)〜23日(日)の期間に行われる″『ことばのまわり─10年目を歩く』乾久子刊行記念展 明日と泳ぐ″というイベント。
乾久子さんは、以前にKOSODATE BASE 浜松でくじびきドローイングというワークショップについて書かせていただきましたが、このワークショップの発案者で、浜松市在住のアーティストです。
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今回の企画展は、乾久子が向き合ってきた震災と福島。そして″あの日″から10年目の福島を旅した本の刊行記念展です。
「本を売りたいだけかよ」って、もちろん買っていただき多くの人の手に取ってもらえたら…とは思いつつも。震災というものに感じたことは誰のものであってもいい。
東日本大震災、能登半島地震、そしていつ起きてもおかしくない言われているこれからの震災。その日のために「私は」何を感じ取ろうとするのか。
それは3.11を知らない子ども達とも。
難しいことだけど、考える機会にいいなぁ…って思ったんです。
ことばのまわり─10年目を歩く
この本は、浜松に住むアーティスト乾久子が、あの日から10年後の福島を歩く物語。『女寅さんと旅をする』と宣伝文句で謳われていますが、今の世代の方に寅さんって言ってもわからないかもですね。
映画『男はつらいよ』(通称:寅さん)。
昭和44年に映画が公開され、そこから約50年ほどシリーズ映画になった作品です。主人公のテキ屋(お祭りなどで屋台をやってる人ですかね)の寅さんが日本各地に旅に行き、ドタバタ劇を起こす物語です。
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この本では乾久子さんが寅さんのように、福島という街をフラフラと旅する姿が書かれています。
福島と聞いて、皆さんはどのような印象を受けるでしょうか。
私は「被災してかわいそうだな」と思っています。今も…そう感じている部分があります。でも、この本を読んでいると、その感情が微妙に変わってきました。
10年という歳月は、少しづつその傷を癒やし明日を向いて生きている。だけど、震災の事は″無かったこと″になっているわけではなくて、ちゃんと心の中にそれはある。少なくともこの本に出てくる人たちは、一日一日を生きていて、生活の息遣いが聞こえてくるように感じました。福島からずっと遠い静岡県浜松市から。それもただの観光客ではなくて、アーティストという立場からこそ見える視線かもしれません。
「政治がどうだ」とか「反原発だ」とか。そういった「こうである」のようなメッセージを伝えたい本ではなく、言ってしまえばただの旅の本。なんか女寅さんの後を追って、福島の旅をしたくなるような本です。良かったら手に取ってみてください。大切な一冊になるかもしれません。
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その日の器をつくる
今回の本の刊行記念に合わせて、幾つかのイベントが開催されます。その中で先行して行われているワークショップ『その日の器をつくる』に参加させていただいたので紹介していきます。
乾さんは震災が起きた2011年3月11日から約1年間。新聞を残していました。
その新聞を使って器を作ります。
器は両手ですくいあげる象徴、そして震災で流されていった生活の象徴でもあります。
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まずは「私にとって大事な一日」を選びます。
楽しかった一日。悲しかった一日。誕生日や亡くなった日でも、その人にとっての大事な○月○日であれば何でもOK。その日の新聞を束から手に取り読んでみます。
私が選んだのは11月25日。私にとって大事な人が亡くなった日です。2011年のその日の新聞には、『文化祭で一時的に震災の事を忘れられて前を向けた』といった記事がありました。
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新聞を読むことで、その日の感情が膨れ上がってきます。同時にあの時には余裕がなくてわからなかった世の流れが冷静に感じ取ることもできました。
その日の新聞からどれか1ページ、水に浸して粉々にし、木工用ボンドを混ぜて器の形にしていきます。
新聞の活字が段々と分解されて、手の中で器に変わっていく感じ。粘土のようではなくてパサパサしていて形が崩れちゃうのを大事に作り上げる感じが、何とも不思議で静かでちょっと楽しい時間でした。
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最後にその日のエピソードを原稿用紙に書きます。
完成した器とその日のエピソードはイベント期間中にギャラリー2階に展示されるそうです。
その他にも、関連イベントが開催されます。
トークイベント
津田大介×乾久子 遠くだからみえるもの
〜ジャーナリストの目、アーティストの目〜
震災直後から今も継続し被災地を取材するジャーナリスト津田大介と、美術家 乾久子のトークイベント。報道と美術、それぞれの視点から見てきた風景の交差点から、私たちが出来る琴・始められることを考えたい。
◎日 時:3月20日(木・祝)18:00〜20:00
◎参加費:¥2,500(先着40名)
⬛︎津田大介プロフィール
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。
メディアとジャーナリズム、テクノロジーと社会、表現の自由とネット上の人権侵害、地域課題解決と行政の文化事業、著作権とコンテンツビジネスなどを専門分野として執筆、取材活動を行う。
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その日、どこで何をしていましたか?
14年前の2011.3.11、その日のことを覚えていますか? どこで何をしていたのか。うろ覚えでも、些細でも、一人一人のその日の物語を伝え合ってみませんか?
◎日 時:3月8日(土)17:00〜19:00 / 3月11日(火)14:00〜16:00
◎参加費:¥500(福島銘菓付き)
ときたま書房 vol.1
昨年に引き続き、県西部を拠点にオルタナティブ奈活動をする二つの書店にご協力頂き″ときたま書房″を週末限定でOPEN.刊行本に合わせ両店主選りすぐりの書籍を販売.
・3月8〜9日:Favorite books L
・3月15〜16日:books cicalata
・3月20日:上記2店舗合同
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Night gallery
暗闇の中で光源を自ら手に取り作品を鑑賞します。通常とは異なる方法で鑑賞することで、よりじっくり作品と向き合う時間をお楽しみ頂けます。
◎日時:3月15日(土)・22日(日)18:00〜21:00(予約不要)
私にとって、誰かにとって大事な日に気持ちを寄せてみませんか。
3.11の事を考えると、トラウマのように心が痛くなって蓋をしたくなる。
私もそうです。そしてその感情はとても大事な事だと思います。
あの震災以降、「3.11から学ぼう」のような言葉を何度か耳にしました。私は「学ぶことは大事だな」と思うと同時に「何を学べばよかったのだろうか」とも思いました。
それから14年。今でもたまに考える時があります。その答えはまだよくわかっていないのですが、「どんな大事な日でも容赦なく壊れる時がある。だからこそ、たまに自分の歩いてきた道を振り返って、大切なものは大切にしていこう。その日を大事に生きよう。」という事なのかなぁ…とか思います。
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3.11に限らず。私にとっての大事な日。あなたにとっての大事な日。大切にしたい事・気持ちは何ですか。
そして、その後に産まれてきた大事な家族へ。
けして子ども向けのイベントではありませんが、家族の『大事』を振り返る機会にも、私はとても薦めたいイベントです。
●乾久子プロフィール
美術家。1958年静岡生まれ。東京学芸大学院修士課程修了。2007年 Das Erlebnis der Linien(ギャラリー Meta Weber/ドイツ)、2021年「ことばのまわり 〜船とゆく〜」(グランシップ/静岡)など、国内外での個展・グループ展多数。2011年ギャラリーK(東京)で東日本大震災をテーマにした作品「毎日祈ったこと・考えたこと」を発表。
同作品は第二回会津漆の芸術祭(2011年/福島県喜多方市)、小田原、静岡、ベルリン、東京都美術館などでも展示される。
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